僕に仲良くしてくれているイギリスの留学生が私はコイキングですと、ギャラドスになりますと言い始めた。
どうやら彼は最近、日本で鯉が龍になった伝説を聞いて感銘を受けたらしい。
「登竜門」とか言葉があるように、鯉が滝を登って龍になるって伝説のことをみんなが忘れていてもモチーフとして残っているのが面白い。
彼とのおしゃべりと簡単な打ち合わせを終えて自室に戻ると机の上に一枚の写真があった。L判のインスタントカメラで撮った写真、写真の周りに白い縁があって時代が立っているとわかる。
この写真のことはよく覚えている。
一番仲の良かった友達と鯉のぼりをつけた竹の棒をもって僕が写っている。
その日はなぜか父の機嫌がよくて家の裏にある竹の棒の先に鯉のぼりをつけて持たせてくれた。
友達とそれをもって外に出たけど、風が強くて鯉のぼりは小学低学年の僕らには重たかった。
友達がお母さんに見せたいと言ってその子の家に向かう途中、近所のおばあさんがニコニコしながら道に出てきて取ってくれた写真。
鯉のぼりを持って歩く僕らにみんな優しかった。
その後しばらくして、友達が亡くなってしまって、しばらくその写真は実家のアルバムに挟んで置きっぱなしにしていたけれど、大学院で思うように結果が出ない時にその写真を持ってきた。
なにか、友達が守ってくれるような気がして机の上において頑張ってきた。
僕が持っている写真は少なくてその写真以外は他の友達も写っているからなんだか悪い気がしてこの写真を持っているのだ。
留学生と話して、子供の日にとった写真だと思いだした。もう30年近く前だ。
あの頃の鯉を机に置いて、立派な仕事をやりたい。
お金とか賞とかじゃないあの頃の鯉に褒められたい。
龍になりたいとは思わないけれど、あの頃の鯉が僕にとっての希望だ。